<<あんみ母さんへの手紙・・くたばれ西田>>
山崎真也(哲学崩れ)
不肖ながら、私はずっと予防的介入(早期介入)におけるARMS
(At Risk Mental State、リスク精神状態)や、
特異性を向上させるために概念的にその洗練化を図ったとされる
UHR(ウルトラハイリスク群)にばかり注意を向けていて、
PLE(精神病様体験、Psychotic-like-experiences)なる概念は、
まあ何か付属品みたいなものと考えていましたが、どうもそうではないようです。
英語の略語がいろいろ出てきてややこしいので、ここで整理しておきましょう。
ARMSとUHRはセットで考えていいですが、
PLEはちょっと性格が違っています。ちゃんと区別しましょう。
ARMSとUHRは、いわゆる前駆期prodrome、つまり初期症状です。
だから、既に、ちょっと発症しかかっている状態、と捉えておけばいいでしょう。
発症しかかった精神病の最早期の状態と言ってよい。
ARMSとUHRの違いは、次の通りです。
ARMSがあまりに非特異的な漠然とした症状(疲労感や抑うつ気分などなど)の
寄せ集めでしかないので、
もうちょっと特異性を上げて後の精神病発症の予測精度を向上させるべく、
その指標となるような症状や徴候や性質はないかと探究された
(その戦略にはClose-inなる名称が付されている)。
その結果同定された、ARMSの中でも特に発症リスクが切迫しているとされた群が、UHRです。
でも、そのUHRも大して予測精度が高くなく、
従って偽陽性や非特異性の問題を免れ得ないことは、
私の論文の中で言っておきました。
で、PLEというのは初期症状ですらなくて、もっとずっと漠然としたもので、
発症の遥か以前から存在するとされるものです。
概念の出所も違います。
それは「自分は超能力や読心術で自分の心を読み取られたことがある」とか
「テレビやラジオから自分だけにメッセージを送られたことがある」
「後を付けられたりこっそり話を聞かれたりされていると感じたことがある」
「他人には聞こえない「声」を聞いたことがある」という
4つの項目を精神病様状態と規定した上で──
精神病だとは言っていない。あくまで「様like」状態とされている──、
それが一般人口〔精神科にかかっていない娑婆の人たち〕の
何パーセントに存在するのかを調べた研究に端を発しています
(ニュージーランド出生コホート研究)。
その研究では、11、13、15、18、26歳時の追跡研究がなされていて、
大体次のことが「分かった」ということです。
西田たちの要約を引用してみましょう。
「PLEs〔最後のsは複数形のsです〕に関する上記の4項目
〔読心術で心を読み取られた・・・以下4つ〕のうち、
1つ以上の項目に該当した11歳児の割合は、コホート全体〔コホートと
は、「集団」「集まり」の意味です。つまり調査された人たち全
部のことです〕の14%に及んだ。
同コホートを15年以上追跡した結果、
11歳時点で強めのPLEsを体験していた群(全体の1.6%)では、
PLEs非体験群に比べ、統合失調症様症状の発症リスクが
16倍も高くなるという結果が報告されている。
さらに、11歳時点で強めのPLEsを体験していた子どものうち、
26歳時点でその90%が就業困難など明らかな社会機能上の問題を抱えていること、
70%は発症には至らぬものの引き続きPLEsを体験していること(PLEs持続群)、
そして25%が統合失調症様障害を発症していることが明らかになった。
また、PLEsを体験した子どものうち、
強めのPLEsに限らず、弱めのPLEs体験群(全体の12.5%)においても
PLEs非体験群に比べ、5倍以上も統合失調症様障害の発症リスクが高いことが報告されており
・・・一方で、26歳時点で、統合失調症様障害の診断に該当した成人患者の
42%が11歳時点でPLEsを体験していたことも明らかにされた。」
(西田・岡崎「思春期のPLEs」、
水野雅文責任編集『統合失調症の早期診断と早期介入』、中山書店、2009年、35頁。
どうですか? 統合失調症様症状(ご丁寧に「様like」と言っている。
自分で「確定診断はできませんでした」と告白しているに等しい。
この段階で「統合失調症様症状」なるもの(の異種混淆性が直ちに問題となる)の発症リスクが、
16倍高いとか5倍高いとかいうと、たいそうなことが起こっているように思えるかもしれませんが、
数字のマジックに騙されてはなりません。
これは強い/弱いPLEsの体験者とPLEs非体験者を比較したら、
発症率にこれだけの差がありましたという相対的なお話であって、
PLEsが本当に分裂病「様」症状の発症リスクとして
どれだけ寄与しているのかを言っているわけではありません。
そんなわけで、「強い」PLEs体験者の25%が分裂病様症状を発症したと言い、
「弱い」PLEs体験者においては、上記引用文からは分かりませんが、
まあそれより少ない割合の人が発症しているのでしょう
(元論文に当たるしかありません。しばしお待ちを)。
また、では逆に26歳分裂病「様」者全体の中で、
11歳時点でのPLEs体験者は一体何%いたのかと言うと42%だという。
だから言いかえれば、分裂病「様」者全体のうちの半数以上、
58%は11歳時にPLEなんぞ体験しておらず、フェイントで発症したということになる。
そうなると、後の発症の予測率という観点からは、
まあ随分お粗末な話じゃないでしょうか?
何せ、「PLEを体験してます」という11歳の児童を集めると、
その中の4分の1(25%)しか後に分裂病「様」が発症しないのですよ。
残り4分の3はどうなるの?
また、はっきり発症した分裂病「様」者の全体の中で、
11歳PLEs体験者は半数以下ですよ。
残り半数強については予測できない
(11歳時点ではこの人が将来分裂病「様」になろうとは思いもよりませんでした)、
という話しじゃないですか・・・?
だが16倍という話しはどうなるんでしょうか?
まあそれは、「そのうち分裂病になる」と言う人を探したい時に、
当たりを付けるんですね。
その付けた「当たり」が、PLEということ。
PLE体験者というのを取り敢えず囲っておいて、それ以外と分けておくんですね。
で、将来を見通す千里眼のメガネを付けて、
PLE体験者に一人ずつ全員に会って行って、
将来分裂病になる人だけと握手をするとします
(分裂病になるかどうかは千里眼メガネで確実に分かるとします)。
また、PLE非体験者というのも集めて、一人ずつ皆に会って行って、
やはり将来分裂病になる人と握手をするとします。
すると、つばを付けておいたPLE群では、一人ずつ会って行って、
実際に握手を出来る頻度が、PLE群に比べて16倍高い、ということなんですね。
逆に言えば、つばを付けていないPLE非体験者たちに一人一人会って行って、
握手をする場合、握手を出来るまでに、16倍余計に、
握手が出来ない人と余分に会わなければならないということなんですね。
というわけで、PLE群に含まれる分裂病発症者の濃度は、
非PLE群に比べて16倍高いので、16倍効率的に握手が出来るんですね。
少ない労力で(あまり人に会わずに)握手の回数を増やしたければ、
PLE群の人たちに会いに行った方がお得ですよ、というわけです。
でも、PLEの人たちに会いに行っても、PLEの人全員のうち、25%の人としか握手が出来ない。
残りの人とは、たとえその人がPLE体験者でも、握手することができない。
この人たちは、当たりを付け、つばを付けられてはいますが、握手はできない。
この人たちはどうなるのか?
他方、非PLE者たちに会いに行くと、
まあ色々余計な人と沢山会わなければならないが、確実に握手が出来る人が含まれているんです。
じゃあ、この人たちは一体何なのか?
しつこくなりましたが、分裂病発症予測の観点からは、
PLEというのは以上のような問題があると思います。
こんな状況で、一般人口の15%にPLEがいる、20%にPLEがいる、と言っても、
だから何なんだ、と聞いてみたいですよね。
でも・・・と西田たちは言うでしょう。
強めPLE体験者は、26歳時に、何とその90%が就業困難等の社会不適応を起こしているではないか!
これこそ、介入の立派な根拠だ、と。
あんみさん! もし行政と渡り合おうというのなら、この論点(?)こそ、
どうにかしなければなりませんよ!
行政はこっちの方にかぶりつきますからね! 確実に。
心の何とか会議に関与した行政家の連中も、スカスカ家族連合も、
松沢や精医研のすかポンタン(通称「専門家」)に絆され説得されたのは、
PLEに関する限り、きっと「90%就業困難」の方であったに違いありません
(何らかのデータをちらつかせて説得されたと仮定する場合)。
行政家って、就業困難を何とかしたいと思っているでしょう?
勿論、「じゃあ非PLEに社会不適応は何%いるの?」という話しになりますが、
そういう話題は少なくとも上記引用中に現れません。
でも問題の本質は、多分そういうことではないでしょう。
PLEを社会不適応=所謂「引きこもり」との
強い相関関係の下に置いたこと自体が問題なはずです。
このこと自体、多様な読み取り方を許しますが、
皮相な行政家諸君や家族諸君は、
よく、社会不適応の問題は「心の専門家」なるものに丸投げされてしかるべきだと、
「専門家の皆さんどうにかして下さい、我々困ってるんです」などと
糞たわけたことをしたり顔でお抜かしになりますよね。地獄の入口だと知らずに。
他方、か弱い仔羊たちを救済するという妙な使命感を持った、
ガラクタ「専門家」どもは、
「専門家」「神様仏様お医者様」とか言って
ちやほやしてくる家族や行政家に抱きつかれて、ニタニタと鼻の下をのばしている。
で、自分の手元を見れば、オッとPLEが社会不適応と強い相関を示しているではないか。
シメシメ、こりゃ使えるぞ・・・。というわけで、
「専門家の皆さん」に社会不適応をどうにかしてもらいたくて仕方のないダボ連中と、
社会不適応を切り口にPLEの「早期介入」(実態は介入実験及びPLE研究と言うほどのものですが)
に乗り出したくて仕方のないハゼ連中の、
幸福なる結婚がハイ出来上がり、というわけです。
いいじゃないですか、「若者のメンタルヘルスを守る」とか格好いいこと言いながら、
「社会不適応への早期介入」を錦の御旗に、大好きなPLE研究が出来るし、
おまけに予算まで付いてくる。制度まで整えてくれる。
公的お墨付きも与えてくれる。色々チヤホヤもしてくれる。
で、お目出度い「素人」や「行政家」の皆さんは、
なんやら訳も分からないが、「専門家」が良いと言っているから「良い」とか思っている。
全く、お目出度い結婚である。
さあ、あんみさん、この幸福な結婚式をぶち壊すことが皆さんの使命です!
心の何とか会議の資料でも何でもいいですが、もう一度見直してみて下さい。
精神病の早期介入(予防的介入)という話しが、
いつの間にか引きこもりとか、若者のメンタルヘルスとか、
もっと広い文脈の話にすり替えられているはず。
行政家が説得されるとすれば、多分こういう茫漠とした、
何か心地よさそうなものでしょうから、ここに突っ込んでいく必要があります。
ただしこれは、色々あるうちの一つの論点です。
相変わらず、DUPなんて言う話しもあって、
こっちは明確な発症後のことなので、
ありとあらゆるものがごちゃ混ぜに突っ込まれていますね(一つ一つ丹念に叩く必要がある)。
いずれにせよ、上記の幸福な結婚を止めさせるために、
保坂さんや、保健課長だか何だかを、どう説得するかですね。
あんみさんの双肩にかかってますよ(笑)。
一般にオーストラリア・モデルは、鵺のように掴みどころがない側面があります。
最初はDUPの短縮(発症後の早期介入)を試図していたはずなのに、
いつの間にか発症前のARMSやUHR群の予防的介入という話しに拡大している。
で、今度はPLEとかいって、発症に先立つこと10年近く前の状態像を持ち出してきた。
UHR群は分裂病発症予測率40%と言っていたのに、最近は10%程度だと言い出した。
『分裂病の早期予防』という本のタイトルでありながら、
自分たちの予防したいのは分裂病ではなく初回精神病エピソードで、
それは非特異的なエピソードだと正にその本の中で主張する。
精神病発症の予防と言う名目で抗精神病薬の二重盲検試験をしていたはずなのに、
発症予測率が低下したり他の物質の有効性が示唆されて予防という表題が失効すると、
今度は、抗精神病薬投与というのはあくまで「対症療法的治療symptomatic treatment」に過ぎず、
前駆期症状そのものthe prodromal symptoms per seの緩和に寄与しているのだから
それでいいのだ、と言い始める。
精神病への早期及び予防的介入が自分の目的だと言っていたのに、
最後は何故か若者のメンタルヘルスとか引きこもりとかトラウマとか、
対象領域が異常拡大してくる。一体、こいつら何がやりたいんだ???
自分の存在理由が切り崩されるその度に、
色々難癖を付けて生き延びるこの汚らわしく醜悪な態度は、
某東京電力や原子力村の住人たちと、いかによく似ていることか!
尚、PLEsについては、一般人口に遍く存在しているということで、
また別の問題もあるのですが、それは今日は話しません
(広瀬さんにはお送りしました。よかったら回して下さい)。
最後に、西田をやっつける場合に最低限読んでおくべき必読文献(現時点で判明しているもの)を、
以下に示しましょう。西田、くたばれ!
西田淳志、岡崎祐士「出生コホート研究から見た統合失調症の病前発達特徴」、
『臨床精神医学』、33巻、2004年、1461-1471頁。
Nishida A., et al., "Associations between psychotic-like
experiences and mental health status and other psychopath-
logies among Japanese early teens," Schizophrenia Research,
99, 2008, 125-133.
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(2011.6.26)